モドル
【祈りの丘】

 そして、アトルシャンは祈りの丘に降り立った。

アトルシャン
「さてと、早くタムリンを見つけなくちゃ。」

 広大なイシュ・バーンの大地が見渡せる丘の上で、一人の少女が祈りをささげている。

少女
「あ、あなた。今、空を飛んでこなかった?」

少女
「ここは、祈りの丘よ。ウルワンの街なら、そこの階段を降りて、まっすぐ西に向かえば着くはずよ。」

少女
「私はタムリンじゃないわ。彼女なら毎朝、ウルワンの町から来て、角笛を吹いているわよ。」


【ウルワンの町】

町の娘
「タムリンなら東北の角の家に住んでいるわ。」

●ヴィジュアルシーン1●

アトルシャン
「タムリン!」

懐かしいタムリンの顔を見た瞬間に叫んでいた。

タムリン
「………?!」

しかし、人間の姿をした彼が、彼女に解る訳はなかった。それを察して、ゆっくりと懐から、銀の鱗をはずした。その軌跡が虹色輝く!
 まばゆい光に包まれながら、青龍へと変わってゆく。その姿でタムリンは悟り、駆け寄った。

タムリン
「アトルシャン!」

その言葉が全てを語っていた。
突然、耐え切れぬようにしてアトルシャンは膝を崩折れた。

タムリン
「どうしたの?しっかして。」

忌まわしい呪縛の力だった。幾千年の時を越え、聖なる大地、イシュ・バーンを蝕む竜族への呪い・・・そして、竜族が身を護る唯一の手段が銀の鱗だった。
この護符があったからこそここまでこれたのだ。
あらゆる生物の頂点を極める竜族の、その強靭な腕も弱弱しく震え、見る影もなかった。
ゆっくりと銀の鱗を身につけて、人間の姿に戻ると、疲れきったようにタムリンに身をゆだねた。

アトルシャン
「や、やあ、元気だったかい?」

タムリン
「グスッ、なにがヤアよ…ほんとに…心配するじゃ…ないの…もう…」

アトルシャン
「フフ…素直じゃないな、ちったぁ喜べよな。」

タムリンの眼からキラキラと光る大粒の真珠が、とめどなくあふれては流れ落ちた。

アトルシャン
「情けない話さ。元々は俺たち竜族の生まれ育ったイシュ・バーンなのに…今ではこのへんてこりんな護符を身につけて、人間の姿にならないと歩くこともできやしない。」

タムリン
「ごめんなさい。私のために…」

アトルシャン
「大丈夫。これさえあれば呪いから身を護ることができるんだから。」

アトルシャン
「ただドラゴンとしての力は発揮できないけどね。」

こうして再会した二人は思い出にひたりながら、その日の夕食を共にした。
タムリンは魔族がイシュ・バーンを襲っていること、エルバードが落城の危機にあること。…そして、明日にでも侵攻してくるかもしれない魔軍に恐れおののく人々のことを話した。

アトルシャン
「なるほど。で、タムリンとしては黙ってられないわけだ。」

アトルシャン
「しかし、女の身で戦うならそれなりの覚悟が必要だぜ。悪くすれば、死ぬ。」

アトルシャン
「魔軍に殺された連中は死んでなお死ねないんだ。そう、死霊ってやつさ。」
アトルシャン
「俺はごめんだね。タムリン一人なら簡単だ。ドラゴン小国へ戻ればいい。しかし、勝ち目がないんじゃ。」

信じられないセリフだった。そんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。

タムリン
「いいわ。あなたには頼まない。私一人でも戦ってみせる。」

すると、アトルシャンは次の瞬間、優しく微笑んだ。

アトルシャン
「悪かったよ、タムリン。君の決意のほどを確かめさせてもらったのさ。結果はわかっていたけどね。」

タムリン
「じゃあ…」

アトルシャン
「一緒にいかせてもらうよ。」

タムリン
「アトルシャン!」

アトルシャン
「ただし!約束してもらうがこれからの行動は全て俺の指示に従うこと。それから、これは白龍のじいさんが言ってたことなんだが、魔軍と戦うには仲間が必要だと、そして。」

アトルシャン
「エメラルドドラゴンの謎を解かねばならないと。」

タムリン
「エメラルド・ドラゴン?」

アトルシャン
「何のことだがさっぱりだが、まぁ勝てる見込みが全くないわけでもないらしい。」

アトルシャン
「とにかく、明日さっそく出発することにしよう。今夜はゆっくりと休んでおくんだね。」



アトルシャン
「タムリン、これからどうしようか?」

タムリン
「私がお世話になったウルワンの長老様に会いに行きましょう。きっと力になってくれるはずよ。」

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