モドル
■オープニング
太古の伝説となりし聖地 イシュ・バーン。
この大地を誰が発見したのか、どこに存在するのか、いつの時代のものなのか、それは誰にもわからない。ただ一つ言えることは、今から君たちの体験する全てがそれであり、すべてが真実であり、そして、すべてが君たちの手にゆだねられているということだ。
そして、ここから物語は始まる。

時をさかのぼること数千年、イシュ・バーンの大地にはいつの頃からかドラゴンたちが住むようになった。本来、気性が激しく人間と共存できるはずもないドラゴンたちが気候のせいか、あるいは大地の不思議な力か、人語を理解し、他種族と共存の道を歩んでいた。
しかし、幸福で平和な日々は、そう長く続くものではない。
そして、破局とは突然やってくるものなのだ。

生きとし生けるもの、すべてにとって聖地であったイシュ・バーンに何者かが呪いをかけた。そして、楽園は一瞬にして地獄と化した。呪いは何故かドラゴンだけを襲い、確実に死を与えた。万物の霊長であったはずのドラゴンたちがなす術もなく、仲間が死んでいくのを見守るしかなかったのである。
こうして、イシュ・バーンを追われたドラゴンたちは、次元の壁を越え、かの地、ドラゴン小国へと逃げ込んだ。中には地底深くにこもり、イシュ・バーンにとどまろうとするものもいた。だが、そういったドラゴンたちの大半が、呪いから逃れられず、死に絶えてしまったのである。

そして、時は流れる…。

ある日、ドラゴン小国に難破船がうちあげられた。装飾などから察するにイシュ・バーンの船のようだ。次元の隔たりがあるはずのイシュ・バーンの船にドラゴンたちは驚いた。
しかも、その船には生存者がいたのである。それは小さな女の子であった。ドラゴンたちに助けられた、その女の子はタムリンと名付けられ、同じ年頃のアトルシャンというブルードラゴンの子供と一緒に育てられることになった。
寿命は非常に長いのだが、滅多に子供に恵まれないドラゴンたちにとって、アトルシャンは百年ぶりに生まれた大切な子供であった。それだけに、子供の大切さをドラゴンたちは知っていた。たとえそれが、人間の子供だったとしても。

夢のような時間が思い出となって駆け抜けていく。

そして、12年の月日が過ぎ去り、ここにもまた一つの別れが来ようとしていた。

12年前、難破船が漂着した海岸の見渡せる丘にタムリンは来ていた。

アトルシャン
「どうしたんだい、タムリン。」

タムリン
「あ、アトルシャン。」

アトルシャン
「白龍に呼ばれてたけど、何かあったのかい?」

タムリン
「私…イシュ・バーンに帰ることにしたわ。」

アトルシャン
「な…さてはあの爺さん、また余計なことを…」

タムリン
「違うのよ!聞いて、これは前々から白龍様に勧められていたことなの。人間は人間の中で暮らすべきだと。」

アトルシャン
「そ、そんなこと・・・今までずっと仲良くしてきたじゃないか。」

タムリン
「ええ、今では良かったわ。でも、考えてみて。私は人間なのよ。このまま、ここで暮らせば、いつか辛い別れの日がくる。そうなってからでは遅いのよ。だから、私はイシュ・バーンに帰って、人間としての幸せを探してみるわ。」

アトルシャン
「・・・そうか、タムリンがそこまで考えているのなら、もう何も言わないよ。」
アトルシャン
「タムリン、これを角笛にして持っていくんだ。もしも僕が必要になったとき、それを吹けば、例え君がどこにいても必ず駆けつけるからね。」

その翌日、タムリンはイシュ・バーンへと旅立った。
アトルシャンの角笛を片手に。


その頃、イシュ・バーンは、どこからか現れた魔軍によって破壊と殺戮が繰り広げられていた。
イシュ・バーン唯一の王国エルバートの軍隊が西の主戦場に派遣されてから、15年になろうとしていた。
両軍の力は甲乙つけがたく、戦いは長期戦の様相をていしはじめていた。
長きに渡り、抵抗を続けてきたエルバート軍ではあったが、魔将軍オストラコン率いる精鋭部隊の出現によって、重要拠点ドゥルグワント城で大敗北を喫し、戦力の大半を失ってしまったのである。

国王軍親衛隊長サダの守る砦が落とされれば、魔の軍勢はすぐにエルバート城へ侵攻してくる。そうなれば、イシュ・バーンは完全に魔王の支配下におかれ、世界は永劫の闇で覆い尽くされ、二度とその輝きをとりもどせないであろう。
人々が恐れ戸惑うとき、タムリンは一人決意していた。国中の男たちが戦場に駆り立てられ、女子供にまで災厄が降りかかりつつある今、タムリンは全ての力をもって魔軍と戦いぬく決心をした。そして、今こそあの角笛を吹くときがきたと確信したのである。

立ち込める暗雲を振り払うかのようにアトルシャンの角笛が鳴り響く。


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